きちんと請求しているのに、時効中断できない?!?

 

時効の中断
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時効の中断とは、進行中の時効がある事由により効力を失うことをいいます。 時効が中断すると、その時点からまた新たに時効期間がスタートします。つまり、振り出しに戻るわけです。消滅時効、取得時効とも差異はありません。なお、時効中断に似たものとして、時効停止というのがありますが、ここではパスしておきます。
時効中断事由はいくつかあります。最もポピュラーなものは、請求と承認です。
わかりやすい例として、金銭消費貸借(金の貸し借り)をあげます。貸した側A(債権者)が借りた側B(債務者)に、貸し金の返済を求める行為を請求といいます。逆に、BがAに対して、借金していることを認めることを承認といいます。
それでは消滅時効の中断事由として請求と承認について順にみていきます。

1.
請求

ABともに商人でない場合は、借金は10年(商人は5年)の消滅時効にかかります。この10年という期間は、いつから始まるかということですが、返済の日を決めてあれば、その日からということになります。返済の日を決めてなかったときは、貸し借りのときからということになります。
ただし、期間の初日は計算に入れないという決まりがありますから、貸し借りした翌日から時効期間が始まることになります。(最も午前0時にヨーイドンでやったときは、その日からになります。)
したがって、10年経ってからAがBに返済請求してもAの請求権は時効で消滅していますから、Bはそれを主張して返済義務を免れることができます。
Aが10年経過前にBに請求し、返済のないまま当初から10年経った場合はどうでしょうか。この場合は、Aの請求方法がどういうやりかたをとったか、そして、請求が10年経過前だとしても、それがいつの時点であったかにより、大きく結果が異なります。
まず、請求方法についてですが、通常私たちは請求書というものを渡す、あるいは送付するという形で請求し、または請求を受けています。また、口頭でということも、もちろんあります。
しかし、単に請求書を渡すというこの方法は決定的ではありません。決定的というのは、時効中断を念頭においた場合です。この請求方法が無効だとかいっているわけではないのです。無効ではなく、有効なんだけれども、時効期間満了が差し迫っているときには、完全な時効中断事由とはならないという意味で、決定的ではないといっているのです。
そういう意味で完全ではないけれども、請求行為は時効中断事由のひとつではあります。それは、6か月間中断する効力をもっています。
先の例にもどると、Aの請求が9年11か月経った時点でなされたのであれば、あと1か月で時効期間が満了するところ、請求のときから6か月後の10年5か月経過のときまで時効は延びることになります。この延びた期間内にAは貸し金を回収すればバン万歳のわけです。
しかし、期間内に回収できそうもないというときには、更に強力な手立てを講じる必要があります。それは、裁判に訴えるということです。そして、これが完全な時効中断事由となるのです。
訴えの場合は、訴状を裁判所へ提出した時点で時効がいったん中断します。裁判が延びて本来の時効期間が過ぎても、裁判で勝てば、裁判確定時に完全に中断したことになります。逆に、もともと勝てる裁判であっても、提出する裁判所を間違えるなどして却下された場合は、無に帰します(請求しなかったことになります)。

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次に、Aの請求が10年経過前だとしても、それがいつの時点であったかということですが、満了の6か月以内であった場合は、請求のときから6か月時効期間が延長するということは、今述べました。では、満了より6か月以上前であったときは、どうなるのでしょうか・・・。お気づきのとおり、Aの請求権はジャスト10年目にして時効消滅し、なんら延長されません。
したがって、タイトルのように、6か月毎にちゃんと請求していても、期間延長が認められるのは、満了期間内にした最後の請求だけということになり、それを過ぎれば、消滅時効にかかるのです。
民法上では、この裁判外の請求のことを「催告」と呼んでいます。また、時効中断事由としての請求にはほかに、支払督促(以前の支払命令)、和解の呼び出し、破産手続き参加(競売における債権届は不可)があげられています。

2.
承認

BがAに対して、借金していることを認めることを承認ということ、及び請求同様、承認するとその時点から新たな時効期間が開始することは既述しました。
しかし、承認には請求と大きく違う点があります。それは、請求が、時効期間内になされたものでなければ効果がなかったのに対し、承認は、期間後になされたものであっても有効だということです。更に、承認することが時効中断事由となることをBが知らなかったとしても、また、既に時効期間が満了していることを知っているいないにかかわらず、有効であるということです(厳密にいえば、期間満了後の承認は、承認ではなくて時効援用権の放棄というべきですが)。
前のページでは、ずいぶんと借り得、買い得、食い得のような話でしたが、この承認という手段はAにとって朗報ではないでしょうか。
では、具体的に、有効な承認をBから得るにはどうしたらよいかということですが、根本的に、承認の相手方はB本人でなければなりません。Bが未成年者であれば、その法定代理人(通常は親の一方であれば良い)になります。
法定代理人がいない場合はどうなるか(親が死んだりして)。この場合は、本人が成人になるか、新たな法定代理人がつくかしたときから6か月間時効は完成しません。成人になるまで待てないときは、後見人選任を裁判所へ申し立て、後見人から債務承認を取り付けます。もっとも、後見人は不用意に承認などして本人に不利益を与えたときは責任問題となりますので、思惑通りに運ぶかどうかは疑問ですけど。本人が未成年者の場合に、時効中断のために請求しなければならない場合も同様の手続きとなります。
ちなみに、20才前に結婚すれば、離婚後もひきつづき成人とみなします。また、皇族は結婚しなくても18才で成人です。そんな人たちに金を貸すという人はたいしたモンです。いれば。
脱線しました。
したがって、承認の相手方が本人Bではなく、たとえば保証人Cだったり、またたとえばCが勝手に本人の代理だなどといっても、あるいはCが本人Bの名前で署名したりしても、どれも有効な時効 中断となりません。本当の代理人が承認したときは有効となります。
逆に、承認を受けるのはA本人(またはAの代理人)でなければなりません。 BがA以外の例えばCに対して、Aから幾いくらの借金をしているなどと話しをし、Aが何らかの手段でそれを聞きつけたとしても、(時効中断事由としての)有効な承認とはなりません。
ABが金の貸し借りをするときに、20年間時効にかからないとか、Bは時効になっても時効を主張しないとかいった取り決めをしたときはどうなるでしょうか。結論をいえば、これらは無効となります。弱い立場のBを救うために法は、あらかじめ時効の利益を放棄することを認めていません。あらかじめというのは、債権成立の前ということですが、同時の場合も含まれると考えられます。
承認は必ずしも「承認書」といったような書面でなければならないものではありません。承認と認められたものに次のような行為があります。
(1)利息の支払いをしたとき
(2)元金の一部を支払ったとき
(3)もう少し待って欲しいと猶予を求めたとき
(4)今忙しいので後にして欲しいと答えたとき
(5)元金減額を申し込んだとき
しかし、(3)(4)(5)などは口頭でのやりとりが普通でしょうから、望ましいのは書面にすることで、できれば、それに公証役場で確定日付を打ってもらえば(費用は安い)パーフェクトです。

ちなみに(1)(2)は書面の交付を伴うと思われますが、それまで支払を受けていた貸主Aが、ある日借主Bから消滅時効を主張されたときに、支払を受けていたことをどう証明するかという変な問題が生じることがあります。つまり、Bが「利息など払った覚えがない」などと主張したときに、Aが「ちゃんと領収書を渡しただろーが!」と言ったところで、証拠品はBが持っているわけですから・・・。そんなことにならないよう安心しきらずに対策を講じておくことも必要かもね。

3.
その他の中断事由

請求と承認のほかに時効中断事由として、差押、仮差押、仮処分、担保権実行(任意競売)があります。
いずれも裁判所手続きとなり、申し立て時に時効が中断します。申し立てが取り下げや却下となったときは、訴え同様、初めから申し立てがなかったものと同じ扱いになります。

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それでは、債権者債務者いずれの立場でも、時効に泣くことなきよう、GOOD LUCK!!